NO.905911 ・今日からお侍さん(男性/19歳) 2015/12/15 22:50:58
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私が成長したと感じた体験です。
自動車学校へ通わされる事になった私。私を一人前にしようという家内からのプレッシャーがきつく家には居場所がない。免許を取得する気が起きず嘘をつき家を出て街をぶらぶらする日が何日か続いた。 ある日、社会がうっとおしくなり街と街の狭間にある田んぼへ逃げた。この場所には田んぼ以外に目立った建物はない。あるとするも小さな墓地か、農作業小屋か電波塔くらいだ。人間もこの田んぼのように良き間(ま)があれば窮屈な思いをしなくて済むのにと思った。 座っても土が着かないだろうと考え、用水に架かる橋を目指した。 濁った汚い水が流れるドブ川だったが、水の流れる様を見ているのは嫌いじゃない。何より人間から離れる時間が気持ちよかった。 鞄には勉強道具が入っていた。教科書を開いて少しも経たずして横に投げて、コンクリートの土手に寝転んだ。今日は曇っているが、晴れているとこうして寝転んだ時に空が綺麗なのだ。 バシャバシャ。何かが動いた。橋の下を覗いた。 亀だった。 生き物のいるような川でないのだが、思わぬ者との出会いに感動した。 野生の亀をこんなに近くで見るのは初めてだった。頑丈そうな甲羅に石を投げた。 外した。亀は逃げてしまった。 亀とでも友達になろうかなと考えた、暗い青春。
私は用水の川を下った。このまま進むと潟にでる。湖のほうが生き物が見られるに違いない。 意外にも用水は湖に近づくほど汚かった。水門で流れが滞っているのでゴミが詰まってしまうからだ。 生き物は期待していなかった。蓮なのかなんなのかわからない丸い葉がたくさん浮いていた。おっと。またしてもなのか。 亀がいた。 あの赤茶色の楕円にヒビ模様。亀の甲羅だ。 私は甲羅に向かって石を投げた。パスっ。 亀は逃げなかった、いや石は甲羅を突き破った。 その"亀"の甲羅は軽くもろかった。いや、亀ではなかった。 コンビニで買うカレーやオムライスのような長い容器がひっくり返りサビ色に汚れていたのだ。
その時だった。目の前が真っ暗になった。 私の精神世界で叫び声が聞こえた。 「幻ィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」 はっ!と侍が目覚めた。 「貴様、父さんや母さんではないな!?」 言い終わらぬうちに、侍は父さんと母さんを斬った。 父さんや母さんの顔には真っ二つに割れ、中から別の顔が覗いていた。 怒りの表情、赤い皮膚、角、まさしく鬼。鬼だった。 鬼共は衣類もろとも斬られゆっくりと倒れた。 私の腕には刃がしっかりと実体を裂いた感触が残った。 侍が持っていたのは真実だけを斬る刀だった。
私の精神世界には親という仮面を被った鬼が居たのだ。 鬼は私の悪が作り出したのだろう。 私は悪を斬ったのだ。 現実に親などありはしないのだ。私は外にいるのだから。
こうして私はまたひとつ眠れぬ原因を減らしたのでした。 めでたしめでたし。 |